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2026.02.09
Live
"Untitled" in Tokyoのライブレポ公開!
2月1日(日)に行ったワンマンツアー「ASTERISM LIVE TOUR 2026 "Untitled"」のツアーファイナル東京公演。
SOLD OUTし大盛況のうちに幕を閉じた本公演の、増田勇一氏によるライブレポとライブ写真を公開します!
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2月1日、渋谷Spotify O-WESTにて開催されたASTERISMの東京公演は、この若き超絶トリオが非常に重要かつ興味深い局面を迎えていることを実感させるに足る機会となった。この公演は『ASTERISM Live Tour 2026“Untitled”』と銘打たれた全国4都市を巡るツアーの締め括りにあたるもので、タイトルが“無題”とされているのは、彼ら自身がこのツアーを特定の作品と紐づけない形で実施することを望んだからに他ならない。ツアー初日にあたる福岡公演の3日前には最新アルバム「Kick Down the Wall」がリリースされているだけに、普通に考えればここで全面的に同作の世界を打ち出すのが順当といえるだろう。しかし「壁を蹴り倒せ」という意味合いの表題が掲げられた新作の世界へと本格的に突入していく一歩手前の段階で、3人は改めて“これまでの変遷を経てきたうえでの今現在”を提示してみせることを選んだのではないだろうか。
開演定刻の18時を5分ほど過ぎた頃に会場内は暗転。ステージに登場した3人は、「Kick Down the Wall」発表に伴う新ヴィジュアルに忠実に、黒を基調とした衣装に身を包んでいる。むしろカラフルで三者三様のイメージが強かった従来と比べると、それだけでもムードの違いを感じさせられるし、今現在のリアルな自分たちの姿を見せつけようという意気込みが伝わってくる。そこで意表を突かれたのは、オープニングに据えられていたのが“OVERDRIVE”だったことだ。このインストゥルメンタル曲は2018年発表の1stフル・アルバム「IGNITION」に収録されている。つまりASTERISMの今というよりは原点に近い楽曲のひとつだといえる。そこで筆者が感じたのは、彼らの現在位置は、かつてのスタート地点と同じ座標の真上にあるのではないか、ということだった。
ごく自然でありながらどこか意味深長な選曲での幕開けを経てHAL-CAが最初の挨拶を済ませると、次に炸裂したのは“Blink of Ray”だった。すでにあちこちのインタビュー記事などでも語られているように、「Kick Down the Wall」の1曲目に収められていたこの楽曲の誕生は、このアルバムの制作過程においてASTERISMの新たな可能性の扉を開くことになった。精度の高い演奏によって抜群の破壊力が発揮されるこのナンバーは、彼らにとっての最新の代表曲ともいえるだろう。しかも歌唱の面においても、ここに至る以前にポップな歌モノへの挑戦を経てきたからこその説得力がある。HAL-CAのヴォーカルには声質的にキュートな質感になりがちな傾向があり、テクニカルでストイックな演奏ぶりとのギャップがユニークさに繋がっていた部分もあったが、今作において彼女は、いわば“音と合致する歌”を見つけたといえるのではないだろうか。それはもちろん、7本の弦で重低音を操りながら獰猛な叫びを発するMIYUについても同じことだ。
その“Blink of Ray”に続き、最新アルバムの曲順どおりに“BLACK CLOUDS”が始まった際、やはりこの名前のないツアーが、彼らの原点と現在位置の重なりを示唆するものであることを実感させられた。結果的にこの夜のライヴ全体を通じ、彼らは「Kick Down the Wall」から5曲、そして「IGNITION」からも5曲を披露してみせた。そうした事実は、これまでにさまざまな試行錯誤を経てきたこのバンドが、出発点に立っていた時点ですでに明確なヴィジョンを持ち合わせていたこと、実は当時から現在のような場所を目指していたことを裏付けていたように思われる。
とはいえもちろん、彼らはここに至るまでのチャレンジを無かったことにしようとしているわけではない。むしろそれを消化し、自分たちが過去最強の状態にあることを確信したうえで、前向きな原点回帰とでもいうべきものを実践しているのだ。そして当然ながら、そうした進化/深化のプロセスにおいて何がヒントになったかを彼らは忘れてはいない。ライヴが序盤から中盤に差し掛かる頃、MIOの強烈かつ切れ味のいいドラム・ソロを経たのちにステージに呼び込まれたのは、マーティ・フリードマンだった。昨年、FIRST TAKEで話題を呼んだ“GYUTTO!!”を皮切りに、そこからは3曲にわたり彼とのコラボレーションが続いたが、親子ほどの年齢差があるマーティとASTERISMの3人が音楽で会話を繰り広げるさまはいつ目にしても気持ちのいいものだし、何よりも全員が存分に楽しみを味わっていることが伝わってくる演奏ぶりだった。
しかし重要なのは、そんなスペシャルなゲストがステージから姿を消してからも、会場内の熱が高まり続けていたことだろう。以降の彼らは「Kick Down the Wall」と「IGNITION」からの楽曲を交互に繰り出していき、終盤には「アンコール無し。全部出し切って帰ります!」という潔い宣言と共に“BLAZE”、“HOMESHIP”、そしてクロージング曲となった“DAWN”へと畳み掛けていった。約80分間に及んだ中だるみの一切ないライヴは、10年以上の活動歴を持ちながらいまだに20代前半のこのバンドが「若いのにすごい」のではなく、「これまで以上にすごい状態に達していながら、まだまだ伸びしろを持っている」ことを無言のうちに伝えていた。
そしてこの地点は、ASTERISMにとって目的地ではなくあくまで通過点にしか過ぎず、「Kick Down the Wall」に伴う物語はこれから本格的に始まることになる。その意味でも5月31日に東京・渋谷WWWで開催される『Kick Down the“WWWall”』と銘打たれたライヴを見逃すわけにはいかないし、このバンドの可能性がこの先どのような形でさらなる開花をみせていくのかが楽しみでならない。この夜も間違いなく彼らは壁を蹴散らしていた。その頼もしいたたずまいに、祝福の拍手を送りたい。
増田勇一